アジア<QBCアジア支局だより>日本ではほとんど流行らないシットコム・コメディ番組 ~シットコム番組に見る米・中・日の文化の違い

Posted:2018年12月20日

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シットコム・コメディ番組の制作は、比較的「ローコスト」で行われる。基本的に、特別なロケを行わずCGなども使用しない。部屋やカフェなどの一つの空間に複数のキャストを配置し、登場人物同士に「会話」させることで笑いを生む。「無」から「有」を生む経済的にも効果的なビジネスモデルとも言える。「ラフ・トラック」という「笑い声」を効果的に使用することで、視聴者にとって「おもしろい(笑える)シーン」だと認識させる。

日本では、このようなシットコム・コメディ番組はほとんど存在しない。かつては試みとして制作された作品もあったが、定着しなかった。ローコストなビジネスモデルの割に定着しなかったのは、理由として、漢字、ひらがな、カタカナなどの複数の種類の文字を使用するために口頭伝承が困難な「日本語の伝承性」や、ニュース性のある話題に臨機応変に対応し作りこみの作品を作ろうとしない「日本テレビ業界の産業構造」などが挙げられよう。ニュースは、新聞などをボードに貼付けただ読み上げる作りこみ度の低い形が取られている。最近の日本のコント番組に於いて、「笑いのポイント」を字幕補足する傾向は、「(視聴者に)深く読ませて、笑いを取る」とは逆方向の流れである。

 

英語・中国語圏の主要国・アメリカと中国では、「フレンズ」(米国)、「ビッグバン・セオリー」(米国)、「愛情公寓」(中国)、「我愛我家」(中国)など、それぞれ全国的に名を馳せるような人気のシットコム・コメディ番組が存在している。米国シットコム・コメディ番組と中国シットコム・コメディ番組では、脚本による「笑い」の創造のされ方に「共通性」と「違い」が見られる。

共通性としては、出演者同士の言葉の「かけ違い」が挙げられる。一人のキャストがある言葉を発した際、それを受け取る別のキャストが、別のニュアンスで受け取り「勘違い」が発する。この勘違いこそ、「言葉の応酬」を基本として笑いを生む原動力となる。ユーモアを研究する理論では、発せられた言葉のそのままの意味を「表意」、相手がその言葉から解釈する意味を「推意」とするが、「表意」と「推意」のズレこそが、笑いを生成する要因となり、米国番組、中国番組も同様の手法が使われている。

一方、米中の番組では「相違点」も見られる。

アメリカの番組では、番組という「フィクション」の枠であっても、大手のファストフードメーカーやスーパーマーケット、映画作品の名前が出現し、会話の中で「あの店のサービスは最近落ちた」「あの作品は、シーズン2が駄作だった」など「批判」されることがある。中国では、企業名や会社名などの固有名詞が登場するが、その団体が批判的な取り上げ方をされることはなく、肯定的な出現の仕方をする。我々は日常生活において、例えば「ちょっと、コンビニエンスストアに行ってくる」と言うより「ちょっと、(具体的なコンビニエンスストアの名前)に行ってくる」という風な用い方をする。いずれにせよ、米中番組での「固有名詞」の使用は、シットコム・コメディにリアリティと生活感を与える。

日本では、固有名詞自体を、たとえ肯定的にであっても、作品に使用することそのものが、企業にスポンサードされていない限り、法度の傾向である。面白さや大衆心理を表現しようというより、トラブルを「初めから回避する」という業界の雰囲気が大きい。日本で、ホームコメディやシットコム・コメディが作られにくいのは、そういった背景もある。

「一般名詞」しか登場しないドラマやフィクションはリアリティに欠ける。本来、「話し(トーク)」だけで、見せ場を作っていくはずの「お笑い番組」ですら、芸人と審査委員との「場外乱闘」が、番組本体よりも話題になってしまう皮肉な時代である。日本のテレビ業界では、「無」から「有」が作り出せないのが現状である。

 

(亜細亜 渡)

 

 

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